それは元日の朝に始まった。人のご縁と居場所の話
2025年1月1日。
新しい年を迎えた朝、わたしは6時半に布団から出て、いつものように猫の水をかえ、温かいミルクティーを淹れながら、ヨーグルトをほんの少量(シリアルも少し混ぜる)。その二つを朝の儀式のように用意すると、いつものように本を開いて読みながら飲み、食べた。
今年は、「元旦だから」「年の始まりだから」となにか特別なことをせず、お正月も平常運転で粛々と生活を始めようと決めていたのだ。
夫が起きるまでの朝の静寂をひとりじめして過ごす贅沢。
こういう地味な時間、その連続にある一日を重ねていこう!
なんて、ついなんでも決意しそうになる張り切り屋の自分をぐっと抑えるようにして、心静かに読みかけの本を手に取った。
本はいつも4、5冊を同時進行で読む。朝はその日を気持ちよく始められるような本を選ぶ。ミルクティーが冷めてしまうまでに、一章とか区切りよく読み終えられる構成のものがいい。
昨年末から校正者の牟田都子さんの新刊『校正・校閲11の現場
こんなふうに読んでいる』(アノニマ・スタジオ)を読んでいて、元日の朝は「ウェブ」校正の章を読んだ。
プロフェッショナルの話はやはり興奮してしまうな。
胸の奥というか、内臓のどこかがぽっぽと熱くなって、こういう感触はわたしにとって悪くない。
そんな興奮のようなものが、そのときの自分を動かしたのだろうか。
わたしはなぜか突然、MacBookAirをぱかっと開いて、Googleの検索窓に「Letter ニュースレター」と打ちこんだ。「theLetter」のサイトに辿り着くや、迷いもなく「書き手になる」というバナーをクリックしていたのである(2分もかからなかったと思う)。
theLetterは、写真家で文章も書かれる植本一子さんのレターと、医療記者の岩永直子さんのレターに登録して読んでいた。
そう、読んでいた、だけだったけれど、なぜだか自分でも書きたくなったのだ。元日の朝に突然……。
ただ、わたしは既にSNSのあれこれアカウントを持っていて書いてないわけじゃないし、仕事では「もう書くの嫌だ。だりー」などと締切を迂回することさえあるのに、これ以上、いったいなにが書きたいのだろう。
わからない。

牟田都子さんの新刊と、背後にぶぅちゃん(我が家の姉妹猫のひとり)
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2001年頃に「ブログ」なるものが世の中に登場すると、当時、在籍していた雑誌編集部がブログ運営会社がコラボすることになった。その流れで、「ブログというサービスを知ってもらうため」という目的を背負って、いわば社命をきっかけに、わたしはインターネットで書き始めたのだった。
それがいつしか仕事の延長であることも忘れて、どうでもいいこと、どうでもよくないことを書くことに夢中になって以来、わたしはネットの世界のあちこちで書き散らしてきた。
並行して、紙媒体でも書き続けている。
ていうか、もう十分すぎるではないか。
ピエール瀧なら「もう、ええでしょ!」だ(Netflix配信『地面師たち』参照)。
にもかかわらず、一瞬も迷うことなく、前傾45度の前のめりで「書き手になる」をクリックしていたわたし……。
しかしながら、次の瞬間、開いた画面に「え?」と一瞬固まった。それがGoogleフォームだったからだ。なんというか、もっとシステマティックな申込みフォームを勝手に予想していたんだけど。Googleふぉーむっすか。
わたし自身が主宰する手作りイベントでもGoogleフォームを利用しているので、ちくちく手動というか、かなりアナログなフォーム作成プロセスを知っている。
theLetterって今どきのITでしょ(ITに対するイメージがかなりぼんやりした昭和人です)。意外さにいささか面食らった。
しかも、そのときに初めて気づいたのだが、theLetterは昨年末から「招待制」に変わったらしく、よくあるブログサービス(今ならnoteとか)みたいに、自分のアカウントを好き勝手に作成できるわけではないらしい。
そ、そうなの……。
まあ、ダメならダメで、まあいっか。
一つひとつの項目に、ちくちくと打ちこんで、実はまだ深く考えていなかった申込み理由も改めて頭のなかで整理して、推敲もせずにばばばっと送信。
これは「theLetter ご利用相談フォーム」だったらしく、すぐにピヨ〜ンとMacBookAirから音が鳴り、受付確認メールが着信。時刻は8時23分。まだ起きてから2時間ほど、新しい年が明けて503分しか経っていなかった。
前日の大晦日、ありがちに遅くまで起きていた夫は、正月を満喫する気配でまだ起きてくる気配はみじんもない。
平日だと、洗濯機を回したり、仕事の準備を始めたりする朝の慌ただしい時間だが、まあ元旦なんだしと、わたしはもう一杯ミルクティーを飲むことにして、牟田さんの本の続きを読むことにした。すぐに没頭して、ひたすら文字を追っていた。
すると背後のMacBookAirから再びピヨ〜ンと音が聞こえてきて、メーラーには初めて目にする個人名(英語表記)で1本のメールが着信していた。
件名は「ご利用相談フォームにご応募ありがとうございます。| theLetter」。
なんと30分前に申し込んだtheLetterの「中の人」から直接メールが返ってきたのである。
ていうか、何度もいうけど元日の朝だよ?
やっぱり手動??
しかも仕事してるの???
驚きつつ、返信するとまた即座にメールが返ってきて、「ぜひ一度お話しましょう」「しましょう」という流れとなり、1月3日の午後にはtheLetterの濱本至さんとわたしはオンラインで「はじめまして」「あ、おめでとうございます」など挨拶をして、早速このレターを書いているのがたった今、1月4日の朝というわけなのである。
2025年という年は、同じ屋根の下で暮らす夫より先に濱本さんという「まだ会ったこともない人」と、メールとはいえ会話をしていたことも不思議だし、「なにも特別なことをしない」と決めたはずの元旦に、思いもかけない流れがあって、新しいことを始めてしまった。
そして、これを読んでくれているあなたと、まだ新年がはじまって6日目というのに、こうしてお会いしているという(お手紙レターではあるけれど)。
人生って、人との出会いってほんとに不思議だなあ。
わたしは「書く」以上に、「読んでくれる人」がいる、こうした「場」が欲しかったんだろうな。言葉を受け取ってくれる人がいる、宛先のある手紙のようなものを書く場が。
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濱本さんに会った瞬間の気持ちを、わたしは今もありありと思い出せる。
「良きものを浴びている」という感触だ。
おいくつか知らないけれど、50を過ぎたわたしのうんとうんと年下だろう。なのでひとまず「濱本青年」と呼ぶことをお許し願いたい。
話をし始めてわかったことだが、濱本青年は神戸に住んでいたことがあり、通っていたという神戸大学は、わたしがいま非常勤講師として週に一度通う神戸松蔭女子大学のほんとにお隣さんだった。
とくれば、お互いに「ああ、あそこですね」と瞬時にわかりあえる「神戸つながり」の地元仲間のようなものだ。
さらに、わたしがいま住んでいる場所、家の前の道までも、濱本青年には「目に浮かびますね〜」という馴染みのある風景なんだとか。
いきなり「前から知ってる人」みたいな気持ちにもなった。
そんな偶然というかご縁もあるけれど、なによりtheLetterの運営やシステムについて話してくれるときの、濱本青年のきらきら輝く透明感のある瞳にわたしは惹かれたのだと思う。
ITに対するあまりにぼんやりした貧弱なイメージで(この説明さえ微妙すぎる)、自分からアクセスしておきながら、どこか斜めに構えていた自分が恥ずかしい。
話してすぐにわかるクリアで明晰な思考、聡明で正直で人間味のあるお人柄。ていねいな話し方、明るいのに落ち着いた声。ビジネスだけじゃない、世の中をよくしたいっていう思いがだだ漏れている。それを浴びた。
お正月、初詣で神仏を拝むより先に、心のなかで思わず濱本青年に手を合わせていたような気がする。
わたしは直感というか、「これは自分にとって悪くない」という感覚をもっとも信頼している。なにより重視するのは身体感覚だ。
頭で考える前に、思わず身体が動いてしまうようなこと、わくわくして胸がぽっと熱くなるようなこと。それはわたしにとって「悪くない」。
頭で考えすぎて、むしろ身体感覚をないがしろにしたことで、ある日「心も身体」もポキンと折れて、心身不調のどん底に陥った2020年12月以降の体験がある(『元気じゃないけど、悪くない』という本に書いたが、この話もまた今後していきたい)。
小さくても「悪くない」感覚が、濱本青年とのやり取りのなかでも幾度となくあった。
そのことを伝えたくて長々と書いています(すみません)。
こういうのって理屈じゃないんですよね。体験を語るしかないので、つい話が長くなってしまうんですよね(言い訳です)。
さて、もう一つ、theLetterは「レター」というだけあり、単純にウェブ公開されるというシステムではなく、「手紙を届ける」ようにメールレターを「読み手」に届ける。
わたしはそのことにいちばん惹かれたのだな。
濱本青年といつの間にか本筋以外の雑談のようなものをしながら、ふと気がついた。
こうして誰かと安心できる場で、どこか親密な気持ちで話をする。
ひっそりと届いた一本のメールにどんな可能性があるのかわからないけれど、大海原でぽつんと一人船を漕ぐのではなく、なんとなく一つの船に乗り合って、同じ景色を見たりできたらいいな。
乗り合った最初のひとりが濱本青年で、少なくともわたしはすでに一人ではない。
そう思えることは大きな安心だ。
どんな景色を見ていくのか、船がどこに進むのか。
そんなことも、このレターを読んでくれるあなたと自然と決まっていくのだと思う。
自分がなにを書くのか。話したいと思うのか。
そのことが楽しみでなりません。
では、また次回(13日予定)お会いできますように〜。
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【追記】
このレターを書いたのは1月4日なんですが、皆さんのお手元に届いたのは6日ですよね。4日以降、この記事の配信準備をしている間に、次に書くことが決まってしまいました!それは「文章の校正」について。
書籍や雑誌、ウェブ媒体などで書いていますが、その原稿とこのレターとでは、ちょっと違うことがあったんです。気づいて冷や汗が出ています。そんな自分にとってはどきどきの話を次回書こうと思います。あうあう。
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