「人は怒るとすごくエレルギーを使う、だから身体にくる」と先生は言った
少し前、久しぶりに、朝起きたらどんよりと身体が重たかった。やることテテンコ・モリだったので、なんとなく午前中はのそのそと仕事をしつつ、遅い目のお昼を適当に食べた(なにを食べたのか全く思い出せない)。
その日どうしても仕上げたい原稿があった。書き上げておかないと、別の日に予定していた打ち合わせにも影響する。端的にいうと、日程の再調整が必要になり、何人もの人に迷惑をかける……。
予測できるさまざまなシチュエーションと、困惑する人の顔が思い浮かび、結構考えこみながら、「こういうの久しぶりだな」とふと気がついた。そういえば、最近、あんまり迷わなくなっていた。
深く考えて迷うことが悪いって訳ではない。ただ、迷いすぎるのはあまりよくないと自分の心に留め置いているのは、心身の不調に陥ったとき「迷いの森」から抜け出せなくなった経験があるからだ。
頭があの深い深い森にどっぷり入りこんでしまうと身体が動かなくなる。そのことを身体が覚えているので、頭が「迷いの森」に入り始めかけたかな〜と感じたら、むしろ身体を動していくことを意識している。
なのに、その日は森の入り口で自分が固まって、頭では動いた方がいいとわかっているのに、なぜか足が地面にはりついたような。
あれれ。これはすでに頭がローギアに入って、サイドブレーキまでかかっているようだ。そうか。すでに頭も身体のどちらからも「動きたくない」サインが出ているのだな。
こうなってしまうと「なぜ」と考えても無駄だってこともここ数年みっちり経験したので、「なぜ」は全力で一時保留にして、「ごめんなさいメール」メールをなんとか送信した。できるだけきれいに取り繕わないで、正直に。
「原稿を落とす」ような致命的なトラブルではなかったけれど、やっぱり何人かのご予定を変更させてしまい、迷惑をかけた。申し訳なさがいっぱいで自分が恥ずかしく、「ご検討ください」と言葉を添えながら、こんなこと書かれたら、検討するしかないはずで、そんな空疎な言葉を使ってしまう自分が情けなかった。
(これを書きながら当時の自己否定ループを改めて眺めてみると、そこまで……と思うほど、自分で自分を責めるんだなあ。人のことだとそこまで気にしないよって思う)
さて、結果的に、ものすごく素早いレスポンスがあり、それもカラッとドライに適度にご心配いただいて、的確に諸々の変更調整を(皆さんにご迷惑をかけつつ)ぱぱっと進めていただき、本当にありがたかった。
関わっている人たちは、仕事でも、仕事じゃないところでも、かなり話を密にしている人だったので、わたしのまとまらないメール文面を、書かれている言葉以上に汲み取ってくださったのだと思う。
結局、メールを送ったあとその日は思い切って夜まで寝転がっていた。
とはいえ、倦怠感みたいなしんどさを感じているときは、眠気はまったく訪れず、ベッドで横になっているだけで、「わたしはいま、なんのために寝転んでいるのだろう」とわけがわからない気持ちにもなる。
それなら起き上がってなにかすればいいんだけれど、身体が重くてやる気はゼロ。「なにもせずに休む」って、相変わらずむずかしいぞ。
とか「考えるのは保留!!」「ほりゅう〜ほりゅう〜」とお経でも唱えるように自分に言い含めて、夜は夫が「元気も出るやろ」とつくってくれたパンチの効いたもつ鍋を食べて寝て起きたら、翌朝には身体の重たさはほとんど消えていた。
強制的に脳をスリープさせて、寝て、再起動したら、なんとかまあ立ち上がったみたいな感じだろうか。単純に身体が疲れているのかなとも考えて、アクセルを踏み込みすぎないように、セカンドギアくらいでゆるゆると翌日も過ごした。
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なんてことを実はすぐに忘れていたのだけれど、先週、心の主治医のT先生のところの定期通院時に、やり取りのなかで思い出したのだった。
「こんにちは。どうですかあ」(のんびりした口調の先生)
「悪くない感じです!」(前のめりのわたし)
「そうなんや、いいねえ」
「……あ、でもそういえば、こないだ久しぶりに身体が重たくなったんです。先生のところに通い始めて、ほら、根拠のない不安が止まらなくなってめっちゃしんどかった頃みたいな」
「不安が出てきたん?」
「いえ、とくにそういう感じじゃなかったんです。ただ、身体がだるいというか、低気圧でどーんと重いみたいな……」
「気圧、低かったん?」
「全然。むしろ高気圧がきてました」
「なにか思い当たることある?」
「どうかなあ。調子悪くないから仕事もそれなりにやってて。だから自分でも不思議なんですよね」
「仕事しすぎてるとか?」
「そこまではしてないと思います。……あ、思い出したんですけど、久しぶりにちょっと嫌なことがありました。それが気になってたのかなあ」
「嫌なこと?」
「うーん。話すと長いから、例えばなんですけど」
「うん」
「『青山さんってこういう人ですね』って決めつけられたというか。内容は悪口でもないし、褒められてるわけでもない、良いとか悪いとかじゃなくて、どうでもいい内容でもあったんです。だけど、なぜわざわざそのことを、今、わたしに断言するように告げたんだんだろう? と違和感があったんです。気にかかったというか、気に障ったというか……ああ、そうだ、すごい腹が立ったんだと思います」