年をとるってやっぱりわからない日記2025.1.1〜10

読んだ本や食べたもの、夫との日常……その日その瞬間が、わたしのその先をつくっている。日記体裁の文章を書くのが初めてなので、転校生のようなぎこちなさです。しばらくは振り返り記録になります。サポートメンバーの方への御礼の手紙のような気持ちで書いた限定公開日記です。
青山ゆみこ 2025.02.25
サポートメンバー限定

1月1日(水)

 元旦。牟田都子さんの『校正・校閲11の現場 こんなふうに読んでいる』(アノニマ・スタジオ)の続き。好奇心でキラキラしている牟田さんの瞳が本越しに透けて見える。なんだか興奮して唐突に「thelettr」にアクセスして「書き手」の申込み送信。すぐに「濱本さん」という方からメール返信があって、3日に会う約束が決まる。今年、最初に話をした人は「濱本さん」、まだ知らない人。

 夫が起きてきたのでおせちと白味噌のお雑煮で今年最初の食事。それから例年通り近所の諏訪神社に初詣。ほとんど登山のように勾配のきつい坂を登った標高100mの位置にある神社で、陳舜臣さんの随筆集『神戸というまち』にも登場する。参拝するのが困難な人のために坂の下の鳥居横には遥拝所があり、5年前、夫が足を骨折してまだリハビリ中のため一人で参拝したお正月に、自分もいつか坂を上れなくなったら遥拝所に手を合わせるのだなと思った。

 夜、我が家(といっても夫とふたり)の元日恒例で牛と豚の二色しゃぶしゃぶ。豚肉は肩ロースが好きで、わたしはアサムラサキの胡麻だれ、牛肉は旭ポンズで食べる。夫は逆で牛は胡麻だれ、豚はぽん酢。食卓に並ぶ食材は同じでも、味の好みの違いが薬味に出る。夫は薬味をたくさん並べて味の変化を楽しむ派、わたしは素材に義理を通したい派。

 イーストウッドの『陪審員2番』を見ようとテレビを点けたものの、正月から重たい作品すぎる気がして、なんとなく『ダーティハリー5』。めちゃくちゃな映画で驚く。リーアム兄さんも出てきて、でも若すぎて一瞬わからなかった。リーアム・ニーソンは年を重ねた方が渋くなって味が出るタイプだな。でも味ってなんなんやろ。むしろなにかこう脂が抜けることで味って出るのかな。

1月2日(木)

 牟田さんの本の続き。お昼はお雑煮とおせち。重箱がだいぶすかすかしてきた。うちは大晦日からおせちをつまみ始めるので2日の夜ともなれば、栗きんとんとか甘い系しか残らない。実家暮らしの頃は、高校の頃からおせち作り担当していたので、30日あたりから台所にこもりきりの立ちっぱなしだし掃除もある。年末になると正月は「壁」のように威圧的にそびえていた気がする。
 夫がおせちを買ってくれるようになり、最初は「おせちを買う」ってことに慣れずに罪悪感があったけど、そんなものすぐに忘れさせるほどめちゃくちゃ楽だ。わたしに娘はいないけれど、いたらおせちは作らせない。母がまだ生きていた頃、夫が実家にもおせちを送ってくれていて、母がものすごく喜んでいた。あまりに喜んで何かの度に御礼を言うので夫は「いや、そこまで……」という反応だったが、母が真剣にありがたく感じていたことがわたしにはわかる。

 2025年度から大学の非常勤でもう一つコマをもつことになったので、年末からメディア関連の本をあれこれ読んでいる。夫に勧められた『新記号論 脳とメディアが出会うとき』(石田英敬・東 浩紀/ゲンロン)を開いてみたものの、3秒で閉じる。理由はさまざまだが読めない本に出会うと、どこかほっとする。全ての本を読まなくてもいいんだって。

 マイ2024の一冊にも挙げた『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』の著者、齋藤美衣さんがゲンナイ本を読んでくれていることをXで知り、感涙。齋藤さんのSNS投稿は透明度が高くて、わたしの汚れた水晶体を洗い流してくれる気持ちになる。おいしそうな呟きと写真にもうっとりしている。

 寄稿した映画レビューが17時にネット公開されたので、SNSのアカウントで「中の人」になってお知らせ投稿。紹介した『ジャージー・ボーイズ』をまた見て、いつもと同じ場面で嗚咽。イーストウッドは監督作品の方が好きかも。

 ジュンク書店三宮店で年末に買っておいた2冊目の石井ゆかり『3年の星占い』『星栞』を、お風呂用におろす(1冊目はリビングの本棚用)。そのうちに湯気でぼわぼわになっちゃうけど、まだぴんと張った表紙の感触を湯船に浸かって感じながら、いよいよ新しい年が始まったなと思う。

1月3日(金)

 思い出したことがあり、『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』(太田出版)をぱらぱらめくってたらどんどん読み進めてしまう。中毒性が高い本というのはなんだろう。

 午後、thelettrの濱本青年とオンラインで初めて会う。画面がきらきらしてた。新しいこと始まる予感のわくわく。良き体感。

 お正月に読むと決めていたク・ビョンモの『破果』(小山内園子訳/岩波書店)を開いたら、やっぱり絶対に面白いと震える。「当たり前かもしれんが、面白い小説というのは読むほどに面白くなるんやな」などと興奮してSNS投稿していたら、気が散ってもう続きが読めなくなった。スマホから離れたい。

 Amazonから夫に小箱が届く。新しいピーラー。数年前、わたしが体調を崩してから台所の主は夫に代わった。以来、キッチン用品がどんどん増えてS字フックを足してももうぶら下げる隙間がないほどだ。ピーラーだけで何種類もぶら下がっているし、お料理動画で見かけるピンセットのデカい版みたいなステンレストングは大中小、サイズも形状もいろいろ揃っている。鍋やフライパンもどんどん増えて、料理ごとに使いわけているのもすごい。低温調理器やガラスの大きなサラダボウル(シュパッシュパッとハンドル回して水がキレるようなタイプ)など、自分はこれからも使わないだろう道具たち。道具好きな人があれこれ買い集めるのを見えていると、ツバメとか鳥が小枝を集めて巣をつくる姿を思い出す。
 ラフランス1個240円。正月値段だろうか。

1月4日(土)

 6時起床。キム・ハナ&ファン・ソヌ『女ふたり、暮らしています。』は「朝に読むと、これから始まる今日の人生が悪くないものに思える気がする」投稿したらなぜかバズる。気持ちがいい。空気の抜けがいい一冊だ。

 レター初回をばばばっと一気書き。大学の期末作文課題への感想コメントを3名に返信。  

 夕方、家から一番近くて一番好きな「Cake Sky Walker」が今日から営業なのでのぞくと、まだ残ってた! あまおうもりもりの苺のタルトとモンブランを選ぶ。2つ買うのは、箱にわざわざ詰めてもらうのに1個では申し訳ない気がするのと、2個以上は箱代がかからないからだ。けれど食後に1つ丸ごと食べられないので、夫と半分ずつ、二日にわけて食べる。パティシエならその日のうちに食べてもらいたいだろうと、それもまた申し訳ない気持ちにもなる。そこそこの中高年、夫婦ふたりの生活で生ものを買うのは案外むずかしい。
 お酒をやめてから食後は必ず甘いものを食べるようになった(わたしは間食的におやつを食べる習慣がない)。遅れてきた新人みたいに「いつか食べてみたい」甘いものがまだまだある。この年で初体験がまだまだあるって、ちょっとラッキーな気持ち。 

 Addiction Reportで書いた映画レビューが公開されるので、17時ぎりぎりまで原作のJ・D・ヴァンス『ヒルビリー・エレジー 』(関根光宏・山田文訳/光文社未来ライブラリー) と照らし合わせて事実関係のチェック。案の定誤記を発見して焦る。自分のことが信用ならない。

1月5日(日)

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